【書籍紹介】『役に立たない研究の未来』初田哲男・大隅良典・隠岐さや香・柴藤亮介(著)柏書房(2021)

書籍紹介

概要

今回ご紹介する書籍は、特に基礎研究者を目指す方々に対して書かれた本です。一方、研究者を目指す方々以外でも、研究者の現状を知りたい人にとっては面白い本だと思います。

書籍の内容は、いわゆる「役に立つ研究」とはどんな研究なのかということについて議論したシンポジウムの内容を書き起こしたものです。ノーベル賞受賞者を含む各分野の最前線で研究を進めてきた著者らと日本初の学術系クラウドファンディングサイトを立ち上げた編者による書籍です。

基礎研究の重要性、国の施策である「選択と集中」に関する議論、市民みんなが科学者になることも一案であるというように、現状に関する議論に加えて、興味深い提案が書かれています。

印象に残ったこと

本書では、「推し研究者」という言葉が登場し、クラウドファンディングで研究者が研究費などを集めるという方法についても提案されている点は個人的にとても興味深く感じました。大学から出る研究費や競争的資金などの既存のリソースが限られている中、自らの研究の面白さを研究者自身が世間にアピールすることで研究費などを支援してもらうということに積極的に挑戦できる環境が形成されてきたようです。

「0から1」という研究分野では、「選択と集中」という施策がなかなか上手くいかないというで、基礎研究に対して幅広く支援をすることが重要だと述べられていた点も印象的でした。

研究者を目指す方、特に基礎研究の道に進みたいと考えている方で、基礎研究に対する周囲の理解を得ることが難しい状況にある方、経済的な問題を避けて通れない状況にある方にとって、その問題を解決するためのヒントになることが書かれた書籍だと感じました。

また、個々の研究者の研究に対する向き合い方が変わるきっかけとなるような内容が書かれた書籍だとも感じました。

最後に、序章に書かれている印象に残った一節を引用します。

「とくに博士課程に進めば、それまで誰も知らなかった事柄を突きつめて研究することができるわけですから、その後どんな職業に就こうが、その訓練が無駄になることは100パーセントない。」p.141

今後も研究者のライフプランに関する書籍を紹介していきます。

研究者と研究者を目指す方々が、やりたいことをあきらめないでいられることを願って。